右の眼窩

薄暗くて狭いところ

わたしのからだのけがのはなし

 私の体にはしょっちゅう生傷がある。どこかに引っ掛け、ぶつけたような小さな傷。見つけたときにはもう治りかけていたりもする。私は私の体のどこに傷があるのかをあまり把握していない。そもそも注意力が足りないのだと思う。それは昔からそうで、何かを落として壊したり(平日の朝っぱらに麦茶の入ったガラスのボトルを割ったときは母が頭を抱えていた)、どこかを怪我したり(注意力のうえに運動神経やら反射神経も足りないので私はよく転ぶ)、ものを忘れるなんて日常茶飯事だ。
 どこかに手足をぶつけても一秒後にはすっかりそれを忘れているものだからあとで自分の怪我を見て驚くのだと思う。こんなところ、何をどうしたら怪我なんかできるのか。そうやって考え込むと意識を失ってしまう。
 意識を失うというのは、ポートが閉じるということだ。考え込んでしまうとそのあいだじゅう、私には音が聞こえない。何も見えていない。不思議なもので、名前を呼ばれたときには反応できる。ほとんど目覚めるみたいな感覚になる。たっぷり眠って起きて、何か夢を見ていたような気がする、そういう感覚になる。何を考えていたのかはたいてい思い出せない。起きたまま眠っているようなものだ。
 坐っていても立ち歩いていてもそういう状態になることはあり、通勤の途中の記憶が無いのになぜか会社の最寄り駅に到着しているなどの不思議な(全く不思議ではない)ことがよく起きる。
 たぶん、そういうときに怪我をしている。記憶には全然ないけれど。