右の眼窩

薄暗くて狭いところ

母が夢に出る

 ときどき、母が夢に出る。

 母を嫌いかというと別に嫌いではない。善良な人だなあと思っている。善良で、甲斐甲斐しく、心配症で、私を未だに子供扱いする。いっそ頑なに思えるほど。
 母の干渉がモラル・ハラスメントの域に達するのかどうか、私は今もよくわからない。やや鬱陶しく感じることはあるけれど、世の中の親という生き物は基本そういうものなんじゃないかという気もする。
 それなのに母が夢に出る。夢の中の母は笑いながら私を罵倒する。罵倒というのは往々にして親愛の所作である。あなたはいつまで経ってもだめなんだから。本当に仕事ができてるの。
 夢の中の主体、つまりわたし、のリアクションは様々だ。現実と同じように笑って誤魔化す、軽く反駁する、あるいは怒号する。夢の中で怒号した日は朝から疲れている。どんなにたっぷり眠った後でも。ときどきは仕事に行けないほど。

 私は私がよくわからない。母を好きか嫌いか。好きだと思う。母のいい子になりたいと思って暮らしてきたけれど、あれが親愛の所作である以上、罵倒はやまないだろう。
 疑問なのはひとつだけ、私は母の子供なのに、どうして親愛のプロトコルがこんなにもずれてしまっているのだろうという、その一点だけだ。