「君は世界災厄の魔女。あるいはひとりぼっちの救世主」
読みました。最高でした。
最高の小説が最悪なのは記憶に強く残ってしまうところです。一度読んでしまったら二度と読む前には戻れない。頭にショックを与えるなどの方法で記憶を飛ばすしかない。記憶を飛ばしてもう一回読みたい。
作者様の作品の中では今まで書籍版おにスタがぶっちぎりで好きだったんですけどランキング更新ですね。君っちめっちゃ好きです。
「最高」だけでは何も伝わらないので頑張って感想を書きます。
ネタバレ無しの感想はとても難しいです。何しろこの本は何を語ってもネタバレになる。同じ作者様のデビュー作のときはなぜか栗入り羊羹とういろうについての怪文書になってしまって(※小説の感想です)あれは我ながらまったく意味がわからなかったので今回は頑張って真面目に書きます。頑張ってって二回言ったね、気にしない方向で行きましょう。
ちなみに前回の怪文書はサーバー吹き飛ばしたときに電子の海に消えました。
数百年に及ぶ長かった戦争が終わった。
「愛の力」によって。
長かった戦争が終わり、ふたつの巨大な国が雁首揃えて平和の式典を行った歴史的な日。
アンナ=マリア・ヴェルナーはその場で大国の要人ーー最強の矛と最強の盾を殺す。
三年前。
アンナ=マリア・ヴェルナーとその相棒、ユージーン・ゲイフォンは夜の街を駆ける。
最悪の中から一番マシな最悪を選び続ける。そうすれば世界は必ず良くなる。そのように、ユージーン・ゲイフォンは言う。
あなたと二人なら世界を変えられる。そう言って、アンナ=マリア・ヴェルナーに微笑む。
誰も虐げられることのない世界。
誰も奪われることのない世界。
誰もが安心して暮らせる世界。
”愛”によって叶ったその世界を、人々を、彼女はすべて破壊し尽くす。
「”善き人”はすべて殺す。私はわたしの世界を取り戻す」
……というのがふんわりした冒頭のあらすじです。アーロンを差し挟む場所がなかった。ごめんアーロン。視点キャラなのに。
あらすじだけ見るとダークファンタジーなのですが、キャラクターがコミカルなのでさくさくーっと読めます。
ごりごりのハイファンタジーでありながらきちんとライトノベルしてるのがすごい。
ちなみに冒頭時点での私の想像は「戦争のために生み出され平和のために居場所を奪われた『兵器』が世界に報復する物語」でした。外れたけど。
さて感想。
しかし面白かったところを述べようとすると何もかもネタバレになる(書いては消しながら)
「VS大澤めぐみ!」の中で作者様本人が「説明するよりも本文書いちゃったほうが早い」と仰っているんですけどなんかこれも「説明するより本文読んでもらった方が早い」みたいな気持ちになる……。
箇条書きにしよう、箇条書き(諦め)
・バディ戦闘が最高
バディ戦闘が最高。なにしろアンナ=マリア・ヴェルナーが強すぎるので全体の文量としては多くないんですけど、十分に楽しめます。特に二年前のアーロンが好き。現在のアーロンももちろん好きですけど、二年前のあの獰猛さがとてもよい。やっちゃえバーサーカー!
物語中盤のVSモモモ概念さんも地味に好きでした。概念さんっょぃ。脳内イメージは「映画大好きポンポさん」のポンポさんと「篠崎くんのメンテ事情」のハザクラさんを足しててきとうに割った感じでした。モモモ概念さんの本体(?)のアバター(???)よりは頭身が低くて幼いイメージ。実年齢はともかく。まあ単に私が「強い幼女めっちゃ好き」というアレで脳内イメージを補正している可能性が高いです。
・愛すべきアホ
あのアホなんて名前だっけ、忘れましたけど。脳内では完全に某シュトロハイム様で再生されていました。愛くるしいキャラでとてもいいです。名前忘れましたけどウザキャラは好きです。大きければ強い! 硬ければ強い! みたいな馬鹿っぽさもよし。まあでもアレに粘着されたら無理ってなるよなとも思う……ツイッタ界隈でよく見るタイプの無理人間。多少なりとも能力があるのでマシな方。
ジワったのがユージーンの「これ後で布団とか売りつけられるやつだ」ってコメント。そういうタイプのセミナー(両手の指二本をくいくいするジェスチャ)があの世界にもあるのか。わらう。
あとひよこミキサーが懐かしくてそれもちょっと笑った。いやまああんまり懐かしい種類のワードではないんですけど。
・タイトル
「君」は「ひとりぼっちの」「救世主」なのですよね。タイトル最高です。
「世界災厄の魔女」と「ひとりぼっちの救世主」を対比として持ってくるところも最高。邪悪で最高。
しかし帯の「ふたりVS全人類」は何だったんだ。
・アニー
あと邪悪なの、「愛してるわ、アーロン」。あれ邪悪。最後まで読むとなお一層邪悪。
生きている人間よりも死体の方を好ましいと感じながらブレンゲンを否定するアニーが、ブレンゲンを嫌いながらアーロンを動かし続けるアニーが、”善き人”の”愛”を否定しながらアーロンに「愛している」と微笑むアニーが、その矛盾があまりにも邪悪で、愛おしい。
・ユージーンと雪の女王
ブレンゲンの存在が明るみに出たとき、私は「ははあ、ユージーンはアニーをかばってブレンゲンに感染したんだな」と想像してたんですけど、実際はもっと邪悪でなんか逆に笑ってしまった。
ユージーンは死にたかったのかな。天才である自分が達成するはずだった、あるいは自分よりもっとすごい天才であるアニーが達成してくれるはずだった「平和」を虫なんかに作られて、それで絶望したのかな。あるいは自分の隣ではなくアーロンの隣に挟まっていたアニーに一矢報いてやりたかった?
アニーがユージーンを分解したのは、もしかしたら触れて知りたくなかったからかな。どうして彼女がブレンゲンを選んでしまったのか、わかりたくなかったからかな。雪の女王に連れ去られてもう戻ってこない友だちについて勘案するのは疲れる。
雪の女王てき比喩表現が本のどこかにあったような気がするのだけどワーッっと読んじゃったせいか探しても探しても見つからない。親しかった人がある日突然「愛」に連れ去られて話も通じなくなってしまう、みたいな文章が……どこかに……まぼろし……?
マクロてき観点で言えばユージーンは正しかったと思う。人類という総体が戦争という非建設的なことにリソースを投入するのをやめて、もっと建設的なことにそれを使うようになる。とても素晴らしいことだったと思う。でもミクロの観点で言えば、すべての主観は失われてしまっている。
ところでスワンプマンってクオリアを持たない存在なんだろうか。アニーいわくあれは死体だから、ブレンゲンは哲学的ゾンビだと感じたのだけど物語の根幹ではないからどうでもいいんだけどなんか引っかかってぐるぐるしてしまう。アニーの言った「あれは死体」って「あれにはクオリアがない」って話よねたぶん。
百聞は一見にしかずって言葉があるじゃないですか。あれって邪悪で、統計(百聞)よりも自分の見たもの(一見)を優先しちゃうみたいなのどこにでもあって、たぶん本来の諺の意図とは違うところなんですけど人間ってほんとうにおろかだ。せっかくアニーに集積したデータよりも自分の目とお気持ちの方を優先しちゃうんだから。
愛への叛逆って書き方をすると急に暑苦しいムキムキが脳裏に出てくるのでどうにかしたい。我が愛は! 爆発する!