右の眼窩

薄暗くて狭いところ

アキアカネ

 外に出たら金木犀の匂いがして驚いた。つい最近まであんなに暑かったのに、もう秋なのか、そりゃ歳も取るわけだと毎年考えるようなことを今年も考える。花を知っているせいかあるいは夕焼けのイメージのせいか、金木犀の香りは橙色をしている。

 私が一番最初に金木犀の匂いをそれと認識したのは小学校五年生のときだ。蔵王に合宿に行って(私の地元の小学校はだいたい五年生の合宿で蔵王に登る)帰ってきたとき。バスを降りたら金木犀の匂いがして、急にタイムスリップしたような感覚に陥ったのだった。

 それから毎年、金木犀の匂いがするとそのことを思い出す。そして「また一年経ったんだな」と認識する。正月よりも誕生日よりも強く一年を意識するのがこの季節だ。

 

 というような話を、去年初めて古い友人にしてみた。友人はあまり気が合わない。好きな食べ物も好きな音楽も合わないし(もちろん一部重複はある)、友人の好きなものを私はほとんど理解していない。話はいつもかみ合わなくてドッジボールのようになっていて、それでも十年付き合いのある高校時代唯一の友人である。

 そうしたら彼女は私の方を向くでもなく、何の留保もなしに、あー、わかる、と答えたのだった。よほど変な顔をしたんだろう、私を見て彼女は怪訝な表情を浮かべた。なに。いや、わかられると思ってなかった。何それ。

 そんなことがあって、ありとあらゆるところで趣味も話も合わない彼女とそれでも十年つるんでいるのはやっぱりどこか似ているからなのかなとうっすら思った。

 

という話。以上。

 もうすぐ彼女の誕生日なので私は彼女の眼鏡にかなうプレゼントを探さなくてはならない。彼女の喜ぶ姿を見るために。