右の眼窩

薄暗くて狭いところ

下書きに入ってたやつ

 仕事があまりにもクソだったのでやけくそになってストロングゼロを飲みながらamazon徘徊してほしいものをカートにほいほい突っ込んでみたらその総額が一か月分の厚生年金の額を超えてなかったので何のために生きてるのかわからなくなった。酒飲んだ勢いで決済しちゃったから数日もしたらあれらはうちに届くのだけど口座の残高を思うと頭が痛い。厚生年金以下の買い物しかしていないのになんでこれっぽっちで財布の心配なんかしなきゃならないんだ? 家賃払って食事して、生活だってほとんど仕事が中心で仕事するために食って寝て休んで洗濯して仕事して仕事して仕事して物欲の総額が厚生年金超えないって。仕事に着ていく服を買うために好きな服を買う予算を削って、健康だって仕事のためで、仕事はなんのためって厚生年金払うためなのか? あと税金。保険には生まれつき見放されているので皆保険にしか入っていない。家系に癌脳卒中心臓病が揃っているので早晩死ぬだろうと思う。
 自由に泣きたくて一人暮らしを始めたのに自由に泣く時間はあんまりない。今はどちらかというと自由に泥酔するために一人暮らしをしている。泥のような酩酊。お酒を飲んでamazonで衝動買いして眠って起きたら会社からクソみたいなメッセージが飛んできていて無理になって土曜の朝っぱらだと言うのに私はまたストロングゼロの缶を開ける。店頭で見かけておいしそうだと思ったけれど500ml飽きずに飲みきれる気がしなくて買ってきた桃味の350ml缶。あまい。おいしい。でもすぐに飽きる。こういう種類のお酒は煙草に合わない。煙草を吸うと海岸の砂みたいな味がする。まずい。煙草に合う酒ばかり飲んでいたら自然に辛党になった。いつだったか一緒に飲みに行ったノンスモーカーの友人が「煙の匂いがお酒に合う」とモヒートを掲げて笑ったのを思い出す。一から十まで理想的な女だと思う。私が男だったらああいう彼女がほしい。きちんと独立していて、少しくらいかまわなくても平気で、そのくせ妙に献身的な女。ほどほどに都会的で、ほどほどに田舎くさい女。私はまたストロングゼロを飲む。まずい。煙に合わない。早々に諦めて冷蔵庫にストックしてあったグレープフルーツ味を出してくる。うまい。
 あいにく私は男ではなく、稼ぎもたいしたことがないので、彼女を嫁にもらうことはできない。酩酊した脳裏に彼女の髪の香りが漂う。またゼロを飲む。アルコールの匂いがそれらの記憶を洗い流していく。逃避のための酒。逃避のためのコンテンツ。逃避のための、間に合わせの、急拵えのものに囲まれて、本当に欲しいものはいつだって手に入らない。あるいは手に入らないから執着しているだけで、それも「本当」ではないのかもしれない。
 泣いたことがないような人間になりたい。ひとつの傷も持たないような人間になりたい。自分にその権利があると疑わず道の真中を歩ける人間になりたい。そういう風に振る舞うのはもう疲れた。LEDに照らされる世界は私にとっては明るすぎる。会社近くのマツキヨなんてあまりにも眩しすぎて手のひらを目の上にかざして歩く羽目になる。適切な照度ってあるだろ。棚や床が白っぽいせいか、ゆうに10万ルクスを超えているように見える。世界から暗がりが消えていくような気がする。どんどん安全に清潔になって私みたいなダンゴムシが生きる場所が無くなっていく。余白が消えていく。闇に潜む犯罪者と一緒に静かなクズはゆっくり首を絞められて死んでいく。私を許さない人ばっかりが世界に充満していくような気がする。
 なまじそれなりに表面を取り繕うことができるせいでどんどん外堀が埋まっていく。表面だけなのであまり近くで見られると困る。アルコール中毒になってしまいたいと思う。心でもなんでもわかりやすくぶっ壊してしまいたいと思う。